STORY
シザーズジャパンのストーリー
代表取締役
長江 良光
工場長
長江 義文
ベースプログラマー
内野 悟
シザーズジャパンの
過去・現在・未来について
語り合いました。
過去
シザーズジャパンを立ち上げたきっかけは何ですか?
社長:自分の手でハサミを造りたいと思ったからです。
なぜ、そう思われたのですか?
社長: 美容師時代に先生が、「ハサミは良いものを買いなさい」って。それで価格を聞いてびっくり!自分の給料より高かった。(笑)後に転職してハサミの営業をやって思ったのは、「あのハサミ、お金に見合ってたのか?」って。技術者になる前はお給料が少ないもんなんですが、でもやっぱり良いものは欲しいと思っておりました。
実際売り手側になってみると、高いのに良くないものも沢山あって、それで、「ちゃんとしたハサミを造りたい」って思うようになって、「やれば出来る!」なんて思いこんで、それが修行の始まりだった。(笑)
創業してから困ったこと、難しかったことは?
社長: ハサミを造るノウハウが一切なかったこと。おまけにお金も 1円もなかった。いやぁ、むしろマイナスでしたね(笑)いきなり借金から始まって、「ハサミ造ります!」って意気込んでみても、造り方どころか「製造のいろは」みたいな知識がゼロでした。
それでいて収入がない、これって相当やばい事態だと焦っていました。正直、困ったとか難しいなんていうか、とにかく悠長なことは言っていられない状況でしたから。
そんな状況でどうしていたのでしょうか?
社長: やっとの思いで建てたプレハブ小屋に一人でした。お金がないから「何から買うべきか?」って優先順位をつけて、まずは材料を「削る」ための砥石が必要だって考えて、部材屋さんに注文したら、「3 か月後です」って言われて。えっ?うそ!頭の中真っ白になりました(笑)
もう一事が万事なにをするにしても、そんなことの連続でした。その頃は「造り方を知らないんだから、造りながら習得するしかない」って思っていましたが、造り始めることすら出来なかったです。ノウハウ、材料、機械、何もかもない、あるのは借金だけで、「造れんかも」って不安だけでした。創業前の「やれば出来る!」なんて、もっと冷静に、もっと謙虚に状況を把握すべきでしたね。知らないっていうのは本当に恐ろしい。(笑)
大変さが伝わってきます…。
社長: 実際何も進まない中でお金と時間だけが消費されていく状況は怖かったですね。
遅くなっても、家に帰ることが不安で、帰っても寝れないので酒飲んで寝て、それで夜中に目が覚めてプレハブ小屋に行く、ある日嫁に「朝までは寝てくれ」って頼まれました(笑)
あーいうの閉塞感っていうんですかね?わけもなく変な胸騒ぎがして「良くないことが起きるんじゃないか?」って、急にどきどきして息苦しくなる、世の中そんなに甘くはないってこの時わかった(笑)。そういうの何年も続いたなぁ・・、こうなるって最初に分かっていたら独立なんかしてなかったです。(笑)
身につまされる思いがします。それでも続けられたのはどうしてでしょう、きっかけとかあったのでしょうか?
社長:ん~。きっかけというか、そういうのはもっとずーっと後のような気がします。
ただ、なんか目には見えない力っていうか、あともう少しだけ頑張らせてもらうことが出来たっていうか、もうダメかなって時に、ハサミを買いたいって電話が来たり、人が訪ねてきたりで、不思議と続けることが許されてるって思う時はありましたね。そんな時はご先祖様に感謝していました。
何か広告というか、宣伝はされていたのでしょうか?
社長: いやぁ、そんなお金なかった(笑)当時はホームページなんて夢のまた夢で、うちは一生無理と思っていました(笑)
パンフレットも制作しようと考えましたが、あれも費用がかかる、例えばハサミの写真1点につき5千円って、言われた瞬間に諦めましたから。むしろ、カメラマンになろうかと思いました。(笑)
なるほど、生みの苦しみだったのですね。ところで工場長、内野さんはいつ頃入社されたのでしょうか?
工場長: 私はこの会社が出来て2年後くらいだったと記憶しています。社長から「一人じゃ無理だから、手伝ってくれって」。まぁ、兄のたっての願いだし、私も奮起しました。(笑)
内野: 私はさらにその2年後くらいですか。実は、工場長とは前職で先輩後輩でした。ある日電話もらって、古い話ではっきり覚えてないですが、「君しかいない!」って口説かれた気がします。(笑)
社長: みんな若かったですからねぇ。勢いだけはありましたから。(笑)
少しずつ仲間が増えていったのですね。
社長: 心強かったですよ。工場長と内野は電子部品の製造業で勤務してましたから、ヒントはだしてくれました。ただ、ハサミは全く分野が違うので、自分たちの置かれている状況は依然として危うい毎日でした。
工場長: それでも少しは造れるようになっていったように思いますし、毎月少しでしたけれども、商品として出てるという実感はありましたから。
内野: ある日、うちのハサミを買ってくださったお客様から電話があって、責任者の人に代るように言われまして、工場長に電話つないだことありました。記憶してます?
工場長: はい、もうクレームの電話だと思いまして、「はーっ、・・」ってなったんですけども、電話に出てみると、「すごくよく切れます、買ってよかったです」ってお礼の電話でした!
内野: お客様からの有難い言葉にほんと救われていました。これで正解だった、そういうのが少しずつですが自信にもなっていました。
工場長: 本当に毎日が手探りで、それが正解なのかは分からないもんですから、なんて言うんでしょうか、なにかを研究してるような気がしてましたから、その答えをお客様が教えてくださった感じです。
内野: 誰も教えてくれないので大変だったけど、新しい発見があって、いろんなことが理解できた時はめちゃくちゃ嬉しかったですね。
社長: そうそう、発表会してたね、素晴らしいと拍手がもらえる。(笑)
現在
この20年で培った、「確かな手応え」のようなものはありますか?
社長: この会社の存在意義はなにか?それが最初のテーマでした。
ある日、営業先で「このハサミを買うと売り上げが上がるんですか?」って言われたことがあるんです。正直なところ、その問いかけには応えることが出来ませんでした。悔しいような、情けないような気持ちで、でももしそんなハサミがあったら素晴らしいことだなって、それでその答えを探したんです。
「髪を傷めないハサミ」、「切られていて気持ちいいハサミ」、お客様が美容室を選ぶ「理由」はなんだろうって思いました。いろいろなうちの一つに「癒し」もあると思うんです。切られる人の「ハサミの感触」というのがあると。それが商品開発のコンセプトになり、誰もがハサミの感触を実感できる製品にするためにずーっと開発を続けています。
工場長: 私どもは、常にそれを意識してハサミ造りに専念しておりますし、もっと良くなるように問題意識を持って日々をすごしております。
内野: 手応えというか、少しずつだけど、「当社独自の技術によってできた」、みたいな製品も出来ましたし、セニングの種類の多さって言ったらもう、あり過ぎるくらいだと。(笑)
社長: うちは営業現場からの声を素早く製品として反映させることが強みです。お客様のニーズを「形」にするために営業と工場の一体感みたいなものは出来てきたと思います。
製品として、他社さんとの違いはあるのでしょうか?
内野: あります。例えばサークル状の「触点」ですかね。これは、ベアリングを使うことで3Dになってるんですが、モノとして物理的に安定してますよね。そうしたアイデアはみんなで出し合って造るんですが、デザインは私の仕事で、そこに新しいものを盛り込んでいます。
工場長: 内野君が材料を切り出して原型を持ってきてくれると、後は私の出番となりまして、そこからは全てが手作業と、いわゆる職人の感性で仕上げまでもってゆくのです。言葉で説明するのは難しいのですが、もう本当に細やかな工程で仕上がりを揃えて、出来るだけ客観的にみてみるのですが、やはり当社の「形」になっていると思います。
社長: そうですね、LSBS というハサミの裏面は、美容業界では当社だけかと思います。それもやっぱり「ハサミの切れ感触」が開発のヒントになって、結果的にたくさんの特性を持つことができて、形だけ違うのじゃなく、「切れ」そのものが当社らしさを実感できるようになったと思います。
なるほど、ハサミのデザインと、使い心地のそれ自体がシザーズジャパンらしいと実感できるまでの20年だったと言えるわけですね。
内野: これからもさらに、精度を高めるって感じです。
工場長: まだまだ開発の余地はたくさんあります。20年位では終わらないんですね。
最近では機械の性能がアップしていると聞きますが、もっと合理化して短時間にたくさん造れるようにお考えですか?
工場長: 私はそれには否定的に考えております。うちはご注文を受けてから造り始めるので、全く違う種類のハサミを造る毎日です。それは職人の感性と技術であって、なにか物差しというか、見本を見ながら造っているわけではありません。大変不合理かと思いますが、それだからこそ出来る発見、気づきがあるのですね。だからです。
内野: その方が職人の能力が上がる、しかし逆に危うさはあるね。
工場長: 人に頼る危うさですか、でもやっぱりそこは譲れないですかね。(笑)
あともう一つとても大切なことで、修理というのがあります。研ぎですね。これはハサミを造るのに似ていますが、違うんです。例えばどこか別のところで研がれたハサミを直す時があるのですが、やっぱり難しい。そいう点でも職人のレベルが仕上がりを左右しますから、職人が能力を高める状況は確保すべきと思います。
社長: そうだね、お客様の切実な悩みと一緒にハサミが送られてきますから。
未来
これからの美容業界やハサミ業者はどうなっていくと思いますか?
社長: いい意味で劇的な変化は起こりづらいような気がします。それは美容師さんも我々も職人であって、人でなければ創造できない部分があるので。
工場長: ただし、ですが、今の世界規模のこの状況は、ハサミ業者にとって楽観的な見方はできないです。今までと同じことを続けるだけでは淘汰される可能性はある、やっぱり危機感はあります。
生き残りですね、それが出来る根拠のようなものはありますか?
工場長: まずは想像力なんだと思っております。新しい製品、新しい技術、新しい商品、どれをとってみても発想というか、気づきというか、それは日ごろの意識の持ち方で変わってくるような気がしますね。
内野: 営業現場から直接的にお客様の声を聴いて、かみ砕いて考えて製品化することが多いのですが、新しい製品とひとつ前のモデルの違いは、技術的には僅かなことが源になっている。そんな気がします。だからお客様に選ばれる商品にするためには、その僅かな違いの持つ意味を理解できているかってことでもある、それでスピード感もでますし、生き残るためには細かな事のもつ意味を理解してることが大事。
なるほど。では、今後シザーズジャパンの目指す場所というか、目標はありますか?
社長: 製品としては最初のテーマを追い続けます。そしてこれまで培ってきたノウハウをいろんなハサミで試してみたいですね。美容師さん理容師さんは世界中にいらっしゃいますから、それを考えただけでもワクワクします。
内野: それは僕もそう思います。入社したころはそんなのは夢のまた夢で、未来を想像するなんてのは、許された人たちだけの特権かって思ってましたから。でも堪えた甲斐あってそういうことを考えられるようになりました。
工場長: 今までとは違う場所、違う世界のハサミに挑戦するということは、もっと想像力を働かせないといけませんね。
内野: 出来ると思う、今までのことを思えば(笑)
社長: 例えば、医療業界においてもハサミは使われているわけで、人命にかかわる大切な手術では、やっぱりお医者様のイメージ通りに切れるハサミであるべきだしね。そういうところでもお役に立ちたいよね。
工場長: 未来を想像するということは、魅力的ではありますが、一方で現実的に美容業界にまだまだ貢献しないといけないです。
内野: 実はまだ言ってないアイデアがあるんですけどねぇ(にやり)
社長: えっ!なに?
工場長: あー、あのセニング?
社長: 知らんのは俺だけ?(笑)
開発の話題になると積極的に意見を出す雰囲気のなか、まだまだ話は続いたのでした。